るくすの日記 ~ Out_Of_Range ~

主にプログラミング関係

作図問題についてあれこれ

この記事は数学 Advent Calendar 2013 - Qiita [キータ] 12/24の記事です。


こんにちは。久しぶりのブログ更新です。最近、開発やら競プロやらをほっぽり出して
数学ばかりやっています。

数学AdventCalendar24日目という事で、今日は作図問題について書こうと思います。


1.作図問題とは
作図とは定規とコンパスを有限回使用し図形を描くことで、どのような形あるいは点が
作図可能であるかという事を考えるのが作図問題です。
ただしここで使う「定規」と「コンパス」には制限があります。
具体的には

  • 定規に目盛は無い。
  • 定規でできるのは既知の任意の二点を通る直線を引く事だけ
  • コンパスはいくらでも小さく、またはどこまでも大きく半径を取ることができる。
  • コンパスを広げて任意の長さを測り取りそれを半径とした円を描ける(ただし測り取れるのは既知の二点間の長さだけ。また円の中心は既知の点でなければならない)

具体例を挙げます。例えば以下は作図可能でしょうか。

「直線PQが与えられている時、点Pを通り直線PQに垂直な直線」

答えはYESです。 次のようにすれば上記のルールを破ることなく作図できます。
(詳細な手順は割愛します)
f:id:RKX1209:20131223104843p:plain
さて、ここで作図を行う平面に(デカルト)座標を導入します。すると平面上の任意の点は実数
の点(x,y)で表されることになります。ここで点(0,0)、(1,0)は既知の点として扱います。
作図はルール上必ず既知の点を必要とするので、いくつかは初めに与えておく必要があるわけです。
これによりX軸が作図できる事が分かります。また、先程の問題からY軸も可能です。

(x,y)が作図可能な時、複素数x+iyも作図可能と考えます。x-y平面は複素平面と対応しますからこれは問題無いと思います。
このような点(x,y)に対応する複素数作図可能数と言います。



2.作図可能数体
もしa,bがともに作図可能数であれば、定規とコンパスを使うことで次のような数も作図できます。
 a \pm b
 ab
 a/b
これらは以下のようにすることで実現できます。
f:id:RKX1209:20131223104847p:plain

これで、作図可能数の四則演算によって得られる数は、やはり作図可能数になっていることが分かりました。
つまり

定理1.1. 作図可能数の全体は体をなす

が成り立つわけです。これを作図可能数体と言うことにします。
原点からの距離が1の点(1,0)は初めに与えられているので、上記より有理数は全て作図可能数になります。

ところで、実は無理数(の一部)も作図できます。以下のようにすれば可能です。
f:id:RKX1209:20131223104850p:plain
なぜこれでできるかはすぐに分かると思います。

これにより有理数 \mathbb{Q} \sqrt{x}を添加した二次拡大体 \mathbb{Q}(\sqrt{x})は作図可能数体だと分かります。


3.作図可能数の全て
次は上記の逆を示します。つまり作図可能数体は \mathbb{Q}の二次拡大体に限るということです。

作図可能数は、定規とコンパスで作図できる図形の交点として表されます。作図の際のルールに注意すればこれは次の3通りしかない事が分かります。

  • 直線と直線の交点
  • 直線と円の交点
  • 円と円の交点

これら3つの交点は最大でも二次の連立方程式で表せます。
直線の方程式と円の方程式はルール上、作図可能数を係数としています。
二次方程式の解の公式 x=\frac{-b \pm \sqrt{b^2-4ac}}{2a}を思い出せば、
これら交点はやはり係数の四則演算と平方根だけで表せるのでQの二次拡大体に属するわけです。
よって以下の定理が成り立ちます。

定理2.1. ある数xが作図可能数であるための必要十分条件
 \mathbb{Q}=F_0 \subset F_1 \subset .... F_{n-1} \subset F_n が存在し、 x \in F_iとなる事である。
(ただし F_i \mathbb{Q} 2^i次拡大体)

4.角の三等分問題
角の三等分問題とはその名の通り、任意の角 \thetaを定規とコンパスを用いて三等分する方法があるかという物でギリシア三大作図問題の一つでもあります。これは上記の定理を用いる事で簡単に証明できます。

まず、角 \thetaを三等分する事は \cos( \theta/3)の点を作図する事と同値です。

f:id:RKX1209:20131223104852p:plain

いま \cos\thetaは既知とし、 \cos\theta=C(Cは定数)とおくと、三倍角の公式から

  \cos \theta = 4 {\cos}^{3}\frac{\theta}{3}-3\cos \frac{\theta}{3}

で、 x=\cos(\theta/3)とおくと、 4x^3-3x-C=0となります。このxは三次方程式の解であるため、 \mathbb{Q}(x)の拡大次数は3になります。
仮にこれが作図可能数体だとすると、定理2.1と次数定理から

 |\mathbb{Q}(x) : \mathbb{Q}|=|\mathbb{Q}(x) : F_n|\,|F_n : \mathbb{Q}|

となります。しかし |\mathbb{Q}(x) : \mathbb{Q}|=3,  |\mathbb{Q}(x) : F_n|=2^nなのでこれは不可能なのです。


5.ガロア理論の導入
これから正多角形の作図について論じますが、その前にガロア理論の導入をしておきます。
導入といっても確認する程度で証明はしません。(手間なので)

定義1.1. LがKの有限次分離正規拡大体となるような拡大を特にガロア拡大という

定義1.2. LがKのガロア拡大であるとき、LのK自己同型群の事を、LのK上のガロア群といい、Gal(L/K)で表す

定理3.1. (ガロアの基本定理)

体 L を体 K の有限次ガロア拡大とする。また、 L^HをL の元のうちで H の下で不変になっているもののなす L の部分拡大とする。
この時Lの中間体 M とガロア群 Gal(L/K) の部分群 H の間の対応

φ : M → H = Gal(L/M), ψ: M =  L^H ← H
は互いに逆写像全単射となる。


6.作図可能な正多角形
ここからは作図可能な正多角形についてのお話です。ガロア理論や円分体を用います。
正n角形を作図する事は、円周をn個の円弧に分割することと同じです。複素平面上で考えると、これは1のn乗根を求める事に相当します。
よって正n角形が作図できる条件は、 x^n-1=0最小分解体が作図可能数体になる事、と言えます。
そこで \mathbb{Q}に1のn乗根を添加した体、すなわち円分体を考えます。


[定義2.1] 1のn乗根 \zeta_nを添加した拡大体を円分体と言う。

このように定義する事で x^n-1=0の最小分解体は円分体になるわけです。
複素数の知識を使えば1のn乗根は \zeta_n = exp(2 \pi i/n)と表される事が分かります。
方程式 x^n-1=0の解 \{ \zeta_n,\zeta_n^2 ....\zeta_n^{n-1} \}巡回群をなします。
これらn乗根の中でも特に、n乗して始めて1になるものを原始n乗根と言い、以下の条件が成り立ちます。

[定理4.1]  \zeta_n^kが原始n乗根になるための必要十分条件はkとnが互いに素であることである。


よって x^n-1=0の解 \zetaの最小多項式
 (x-\zeta_n )(x-\zeta_n^{k_{1}})\cdot \cdot \cdot (x-\zeta_n^{k_{s}}) (ただし (n,k_{i})=1 )
となります。これを円分多項式と言います。

[定義2.2]
 \Phi_{n}(x)=\prod \limits_{k|n} (x-\zeta_n^k)
を円分多項式と言う。

定義より円分多項式 \Phi_nの次数はオイラーのファイ関数 \phi(n)に等しい事が分かります。
 \phi(n)というのはnと互いに素である整数kの個数を表す関数です。
よって以下の定理が成り立ちます。

[定理4.2]  \mathbb{Q}に1のn乗根を添加した拡大体 \mathbb{Q}(\zeta_n)の拡大次数 |\mathbb{Q}(\zeta_n) : \mathbb{Q}| \phi(n)に等しい。

ところで、円分体はガロア拡大体なのでガロア Gal(\mathbb{Q}(\zeta_n)/\mathbb{Q})を考えることができます。次の定理はとても重要です。

[定理4.3] ガロア Gal(\mathbb{Q}(\zeta)/\mathbb{Q}) \mathbb{Z}_n*に同型である。( \mathbb{Z}_n* \mathbb{Z}_nの単元群)

これは \psi(\zeta_n)=\zeta_n^k (\psi \in Gal(\mathbb{Q}(\zeta)/\mathbb{Q}) )となるような元 \psiに対して
 k \in \mathbb{Z}_n*を対応させる写像を考えるとすぐに分かります。


さてこれで準備は整いました。それでは正多角形の作図に関する以下の定理を示します。

[定理4.4] 正n角形で,コンパスと定規だけで作図可能なのは  \phi (n) が 2 の累乗のものに限る。

(証明)
(十分性 =>)
先程述べたように、正n角形が作図できるならば x^{n}-1 の最小分解体 \mathbb{Q}(\zeta)は作図可能数体になっています。
よって定理4.2と定理2.1より  |\mathbb{Q}(\zeta) : \mathbb{Q}|=\phi(n)=2^k が成り立ちます。

(必要性 <=)
逆に \phi(n)=2^kとすると、ガロア  Gal(\mathbb{Q}(\zeta)/\mathbb{Q}) \simeq \mathbb{Z}_n*の位数は 2^kとなります。
群の位数が素数べきの時、群は単純群ではないので、正規部分群の組成列  \{e\} =G_{0} \subset G_{1} \subset ... \subset G_{k} = Gal(\mathbb{Q}(\zeta)/\mathbb{Q}) を考えることができます。
各部分群において |G_i|=2^iとなっており、これは可解群です。ガロアの基本定理(定理3.1)より、これら組成列に対応する \mathbb{Q}(\zeta)の部分体の昇鎖列を考える事が可能です。
 \mathbb{Q} =E_{0} \subset E_{1} \subset ... \subset E_{k} =\mathbb{Q}(\zeta) (ただし |E_{i}:E_{i-1}|=|G_{k+1-i}:G_{G_{k-i}}|=2)
よって |\mathbb{Q}(\zeta) : \mathbb{Q}|は2の累乗になります。 ■


今、pを素数とすると \phi(p)=p-1です。一方、上記の定理より正p角形が作図可能なためには \phi(n)=2^kと書ける事が必要でした。
よってpは p=2^k+1を満たさなくてはなりません。

[定理4.5] pを素数とすると正p角形が作図可能となるのは  p=2^{k}+1 と書ける場合に限ります.


このように 2^k+1の形で表される素数をフェルマー素数と言います。
これにより、正多角形の作図問題は「フェルマー素数を探す」という問題に帰着されたのです。

ここではpは素数でしたが、一般の正n角形については次の定理が成り立ちます。(これはガウスによって証明されました)

[定理4.6] 正n角形が作図可能となるのは、nを素因数分解したときに奇数因子が全てフェルマー素数のどれかであり、なおかつ同じフェルマー素数が2つ以上存在しない場合のみである

ここでは証明はしません。詳しくは代数学の文献を参照してください。

ちなみに現在知られているフェルマー素数は
 2^1 + 1 = 3
 2^2 + 1 = 5
 2^4 + 1 = 17
 2^8 + 1 = 257
 2^{16} + 1 = 65537
のみで、これより大きなものが存在するか否かは未だに分かっていません。


7.おわりに
作図という比較的単純な作業も、実は数学的構造の一端を成している事が分かりました。
数や図形といった枠を超え、抽象的な観点から論じる事で、今まで見えてこなかった複雑な構造を垣間見る事ができたのです。これは作図問題に限った事ではありません。例えば方程式にまつわる「5次以上の方程式は代数的に解けない」という定理も、ガロア理論を用いて証明する事ができます。


私の記事はここまでです。読んでくださってありがとうございました!